『強弱記号は「自分基準」ではない』
音楽には f(フォルテ) や p(ピアノ) といった強弱記号があります。
ところで、あなたにとっての「フォルテ」はどれくらい大きな音ですか?
また「ピアノ」は、どれくらい小さな音でしょうか?
私が専門学校でアンサンブルの授業を担当していたとき、よくこんな場面がありました。
- メロディーを担当している生徒が「フォルテ」で演奏しているのに、伴奏パートの生徒がさらに大きな「フォルテ」で弾いてしまい、肝心のメロディーがかき消されてしまう。
- メロディーを演奏する生徒が「ピアノ」を小さく弾きすぎて、逆に伴奏が前に出すぎてしまう。
つまり、生徒それぞれが 「自分の思うフォルテ」「自分の思うピアノ」 で演奏してしまうんです。
その結果、アンサンブル全体のバランスが崩れ、主役と脇役が入れ替わってしまう。
強弱記号は「自分基準」ではなく、全体の中でどう聞こえるか が大事です。
合奏やアンサンブルでは、個人の音量の基準をそろえるのではなく、役割に応じて音量を調整する耳 が求められるのです。
なぜこうなるのか?
大きく分けて、理由は次の3つがあります。
- 自分の音しか聴いていない
楽譜の指示を「自分の音量」でしか解釈せず、周りとの関係を意識できていない。 - 音量の感覚が育っていない
「フォルテ=全力で大きく」「ピアノ=とにかく小さく」と短絡的に考えてしまい、幅をコントロールできない。 - 役割意識の欠如
メロディーが主役、伴奏は引き立て役という基本構造を理解していないため、全員が主役のように演奏してしまう。
どう練習・指導すればよいのか?
アンサンブルで大切なのは「耳」と「役割理解」です。
そこで私は、授業でこんな指導をしていました。
- 聴かせる
「今の演奏を聴いて、メロディーが聞こえる?」と問いかけ、自分の音と全体の違いを実感させる。 - 役割を言葉で確認させる
「この曲で一番伝えたいのはどの声部?」「君のパートは支える側だよね」と言葉にすることで、演奏に意識を持たせる。 - 強弱を“相対的に”考えさせる
「メロディーのフォルテを100としたら、伴奏のフォルテは70くらい」と数字に置き換えると理解しやすい。

『ソロ演奏における強弱のつけ方』
〜大げさなくらいがちょうどいい〜
1. アンサンブルとソロの違い
前文では「アンサンブルでは強弱を自分基準で考えず、全体の中で調整することが大切」と説明しました。
では、ソロ演奏の場合はどうでしょうか?
アンサンブルでは「周りとのバランス」が第一ですが、ソロでは「聴いている人にどう伝わるか」がすべてです。
つまり、ソロ演奏では 強弱を自分の中で感じているよりも、外へ大きく表現すること が必要になります。
2. なぜ大げさな表現が必要か?
演奏者自身が「結構強く弾いた」「かなり弱くした」と感じても、
聴衆にはその差が意外と小さくしか伝わらないことが多いのです。
理由はシンプルで、
- 演奏者は楽器のすぐそばで聴いている
- 聴衆はホールや教室など「空間を通して」聴いている
この距離と環境の差が、強弱のインパクトを薄めてしまうのです。
だからこそ、自分が思う以上に大げさに表現することで、ようやく聴衆にはっきりと伝わります。
3. 実践のポイント
① 「自分にとってやりすぎ」くらいでちょうどいい
練習のときに「これはやりすぎかな」と感じるくらいフォルテやピアノを大きくつけてみてください。
録音して聴くと、「あ、これでちょうどいい」と実感できます。
② 強弱を場面転換のように使う
ソロでは強弱の幅が大きいほど、物語性やドラマが生まれます。
まるで舞台の照明が切り替わるように、強弱を思い切って変化させると、聴衆の心をつかめます。
③ 曲全体の設計を考える
ただ大きい・小さいを繰り返すのではなく、曲のクライマックスに向かって少しずつ強くしていくなど、強弱でストーリーを作る意識を持つと効果的です。
👉 アンサンブルとソロ、それぞれで「強弱の考え方」を切り替えることで、演奏はぐっと豊かになります。
『ソロ演奏・強弱表現ワークシート』
〜大げさなくらいがちょうどいい〜
1. 録音チェック
- 自分のソロ曲を 普通の強弱 で演奏して録音する。
- 次に、大げさなくらいの強弱 をつけて演奏し、録音する。
- 聴き比べて、次の質問に答えよう。
- 聴衆にとって違いがよく伝わったのはどちら?
- 自分が「やりすぎ」と思った表現は、録音ではどう聞こえた?
2. フォルテとピアノの幅を知る
次の課題をやってみよう。
- 同じフレーズを pp(ピアニッシモ)→ff(フォルティッシモ) まで、だんだん大きくして演奏する。
- 逆に、ff → pp まで、だんだん小さくして演奏する。
👉 「自分が出せる最小の音」と「最大の音」を確認して、強弱の“幅”を実感すること。
3. 場面をイメージして表現する
次のシチュエーションを想像して、同じフレーズを弾いてみよう。
- フォルテ:「花火が一斉に上がる瞬間」「大声で仲間を呼ぶ」
- ピアノ:「誰かに内緒でささやく」「夜空に浮かぶ小さな星」
👉 音量だけでなく「音の色・質感」が変わるのを感じよう。
4. 曲全体でのチャレンジ
演奏しているソロ曲を使って、次の課題に取り組む。
- クライマックスを 一番大きなフォルテ に設定する。
- そこに向かって、少しずつ強弱を積み重ねていく。
- 演奏後に「どこが物語の山場だったか」を振り返る。
まとめ
- ソロ演奏は「自分の感覚」よりも大げさに表現してちょうどいい。
- 録音やイメージを使って、聴衆に伝わる強弱を磨こう。
- 強弱で物語を作れば、ソロ演奏はもっとドラマチックになる。
👉 このワークを繰り返すことで、生徒は「自分がやりすぎと思う表現」と「聴衆に伝わる表現」の差を自然と理解できるようになります。



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